2011/11/01

17(第一部)

 私の職歴の中で特に印象深い出会い、幸運にも洋楽業界での15年余りのキャリアの間に世界的なアーティストやミュージシャンと直接に知り合い、仕事上での付き合いとは言え親しく交流する事が出来た事については、現在の私自身にとっても大きな経験となっています。前回は今や伝説的なグループと言われる「アース・ウインド・アンド・ファイア」のリーダー、モーリス・ホワイトのお話を書きましたが、今回はその中でも触れていたキーボード・プレイヤー/プロデューサーのジョージ・デュークについて書こうと思います。一般の方にはあまり馴染みのないアーテイストだと思いますので、まずはプロフィールから御紹介しましょう。

 ジョージ・デューク/George Dukeは、1946年生まれ、カリフォルニア州のサン・ラファエル出身のミュージシャンで、80年代に入ってからはポップ・アーティストのプロデューサーとしても活躍しているウェスト・コーストの才人の一人です。そもそもはジャズ・ピアニストですが、若い頃から先進的なプレイヤーとして活躍しており、特にフランク・ザッパ/Frank Zappaのグループでの活動は有名です。76年から米CBSとソロ・アーティストとして契約、EPICレーベルに所属して数々の作品を発表、80年に同じEPICに所属していたベーシスト、スタンリー・クラーク/Stanley Clarkeとのグループ、「クラーク/デューク・プロジェクト」を結成してユニークなブラック・コンテンポラリー作品を制作しました。

  私がジョージ・デュークを担当したのは3年弱のごく短い期間でしたが、84年に彼自身のバンドとして初の来日コンサートを実現するために、私が各方面に色々と働き掛けていた事を通じて本人とも急速に親しくなりました。その約2年前、「ドリーム・オン/Dream On」という最大のヒット・アルバムを出してポップな世界でも名が売れ出したのがきっかけでコンサートの話が出てきたのですが、シングル「シャイン・オン/Shine On」のヒット1曲だけではホール・コンサートのツアーはなかなか困難です。ジャズやフュージョンの世界ではそこそこ名の知られた存在でしたが、イメージが地味でマニアックなアーティストであり、本国のアメリカでもコンサート・アーティストとしてのキャリアはほとんどありませんでした。それまでにサイドのキーボード・プレイヤーとして2度の来日経験がありましたが、あくまでもマニア向けのステージばかりでポップ・アーティストとは程遠い存在です。その点では前回御紹介したモーリス・ホワイトと共通した背景がありました。

 ジャズからスタートして中年世代を迎えてからポップ・ミュージックへと転進して成功したブラック・アーティストはモーリス・ホワイト、クインシー・ジョーンズなど何例かありますが、クインシー・ジョーンズの場合はあくまでもプロデューサーとしてのイメージが強く、ステージアーティストとしても幅広く知られる存在になったのはモーリス・ホワイトだけといってもよいでしょう。ポップ・アーティストとしての条件の一つにはボーカルが出来る事とルックスという2大条件が必須ですが、とくにアメリカでプロのボーカリストとして認められるためには相当な実力と運がなければなりません。

 ましてプラック系の場合は大変に層が厚く競争も激しいためによほど傑出した条件が整わない限りはレコーディング・アーティストになることはおろか、プロとして活躍することですら本当に狭き門なのです。ジョージ・デュークはボーカリストとしては素人レベルでしたが、卓越した音楽性がありボーカルを楽器的に扱う事がとても上手な人でしたので、レコーディングの場合には立派に通用するボーカリストぶりを発揮しました。特にファルセット(裏声)がチャーミングで、あのごついルックスからは想像のつかないような甘い優しさがありました。ヒット曲の「シャイン・オン」はウエスト・コーストの優秀なバック・コーラスを起用しながら彼自身がリード・ボーカリストとして得意のファルセットを聞かせてくれます。このレコーディングの巧みさ、一緒に活動していたサウンド・エンジニアの素晴らしさもあってアルバム「ドリーム・オン」は録音の優秀さでも評判となり、オーディオ雑誌からも高い評価を得ました。
 とはいえステージでの実演となると話は別です。ポップ・アーティストとしての条件であるルックスに関しても、いわばオヤジ・ダンサーズのイメージですからモーリス・ホワイトほどの開き直った派手さもありません。「シャイン・オン」のイメージでポップでお洒落なスターを想像するようなダンス・ミュージック・ファンにはかなり厳しいと言わざるを得ません。コンサートの告知用ポスターのデザインや雑誌の記事、広告などの「見せる」イメージについてはスタッフもかなり悲観的な感想が多かったと記憶しています。

 コンサート・ビジネスは基本的にはレコード会社の仕事ではありませんが、アーティストやレコードのプロモーションにとっては大変に重要な意味を持っています。一般的にコンサートはアーティストにとっての収入源の一つと思われていますが、実際は莫大な収益を得られる例はごく少なく、アーティストのマネジメント会社にとっては両刃の剣とも言えるものなのです。実演で評判を落としたアーティストも数多くありますし、外タレの場合はとくにそのリスクが大きいと言われます。一方で発展途上の実力者やイメージが固まり始めたアーティストにとっては評価を上げる絶好の機会とも言えますし、コンサートの素晴らしさが評判になれば2度、3度とツアーを継続する事ができるようになります。ジョージ・デュークのような本格派のアーティストの場合は実演の素晴らしさが伝わる事でレコードの売上がハッキリと変化します。

 優れた音楽性を持った素晴らしいキャラクターのジョージ・デューク、人格者で特にミュージシャン仲間から絶大な信頼を得ている彼の実質的に初めてのメインアクト・コンサートを実現したい、私はそんな思いに駆られてレコード会社の一担当者の枠を越えた動きを取りました。次回その後の感動的な出会いを含めてお話を続けたいと思います。

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