2011/11/01

18(第二部)

 デジタル時代の本格的な始まりの時期=1995年前後は日本国内はバブル崩壊後の景気停滞期であり、一方アメリカはITブームが巻き起こる好景気の真只中にありました。この時代の先端にあった新しい産業市場の担い手は国内で言えばソフトバンク、NTTドコモ、ソニーに代表される企業で、その周辺にハードウェア&ソフトウェアに加えてコンテンツという(古くて)新しい担い手が注目を集め始めます。「コンテンツ」という言葉が一般化したのはまさに1995年頃からですが、デジタル革命がもたらした新たな価値の表現です。端的な例は音楽や映像の「記録」であり、アナログからデジタルへと記録方式が飛躍的な変化を遂げる中で、放送と通信の融合が進んでいるプロセスと同時進行で、アナログ記録のデジタル変換技術や大容量データの圧縮技術が急ピッチで開発されました。

  放送にとっての「プログラム」はコンピューターにおけるソフトウェアと同様に、インフラ(=ハードウェア)を機能させるために最も重要な「要素」であり、ネットワークの概念も放送における放送局同士の連係という形で発展してきました。CNNのような「ニュース専門」チャンネルなどは特にニュースソースの「売買」をビジネスの中心に据えた新しいタイプの放送局であり、メディアの価値を「コンテンツ」に置いて成功した最も典型的な例という事が出来ます。彼らにとっての最大の収益源は全世界の放送局との「ネットワーク」であり、そのネットワークを維持発展させるための最大の「商品」は彼らが独自に集めるユニークなニュース・コンテンツです。そのニュース素材を絶え間なく、しかも誰よりも早く収集し、全世界に配達することが最も重要な仕事であり、その為に取材のネットワーク作りと取材方法の開発には巨大な投資をし続けています。「ビデオ・ジャーナリスト」の育成などはその典型的な例ですが、一人でカメラマン、エディター、インタビュアーそしてコメンテーターをマルチにこなす人材を世界中に開発してきました。インターネットの発展はこのような放送の「コンテンツ」についても、放送局とならぶ新たなパーソナル・メディアとして取り込んで行くことになりました。つまり、元来「双方向」を前提とする通信がPCを端末とする回線経由の「一方向」通信として使うことによって、放送の機能を包含することになったのです。

  So-netでの「コンテンツ」ビジネスの展開について、「ポストペット」の次に何をやるか? 1997年頃、既にアメリカが先行していたインターネット向けコンテンツ開発の中でも「放送」のパーソナル化を睨んだ試みは比較的遅れていました。最大のネックは「コンテンツ」のデータ容量の大きさと回線速度の遅さでした。ストレスなく放送並みのクォリティを提供するにはユーザーの通信環境も非力でしたし、また動画の送受信などはデータの大きさから見て10年は無理とすら考えられていました。そうした高いハードルを前に、果敢に技術開発を進めていたアメリカの企業がありました。一例はアメリカのリアル・ネットワークス社であり、アカマイ社です。リアル社はストリーミング技術、そしてアカマイ社はキャッシュ技術の会社で、どちらも現在では世界標準と呼べる技術を提供するまでに成長しましたが、いずれもインターネットの弱点を解決するために、基礎技術の研究に精力を注ぎ込んできた新興企業です。その基礎技術の中核は「データの圧縮」と「データの蓄積」を軸としたものですが、データベースと回線の間に置かれる中継用のデバイス・ソフトウェア(ミドルウェアとも呼ばれます)の技術開発です。一方、プラウザーの機能についてはMicrosoftのInternet Explorerの独占に等しい状況の中、動画再生のプラグインとしてはMacomedia FLASHが標準となりつつあり、またストリーミング用にはリアル・プレイヤーが一般化し始めていました。

 Sonyのオンライン・サービス会社としてはアメリカのソニーオンライン・エンタテインメント社(SOEA)が1996年に設立され、アメリカで音楽配信やネットワーク・ゲームのサービスを始めようと動き始めていましたが、この会社自体は基本的にサービスとマーケティングの会社であった為、技術面ではソニー・ピクチャーズとソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のサンディエゴのPC部門が支える形でした。(この楽歴書で前回触れたデモンストレーション・イベントはこのSCEのPC部門が行ったものだったのです。)このSOEAの代表は有能な女性プロデューサーで、私も何度かニューヨークで彼女と会い、色々な議論を重ねました。特に当時、既に日本国内やシンガポールなどでヒットの兆しが見え始めていた「ポストペット」の米国版ライセンスの売り込みを行いましたが、残念ながら彼らには小学生以下の「子供用ソフト」としてしか見えなかったようで、キャラクターの魅力や可愛らしさを高く評価してくれたものの、アメリカでは「子供」がPCを使ってメールをやり取りするのは全くリアリティがなく、また「ポストペット・パーク」のような有料サービスサイトを小学生が利用することは親が認めないとの見解を得ました。(このようなキャラクターへの認識のギャップは「ドラクエ」や「キティ」も同様で、アメリカではヤング層も一緒になって愛玩するアニメ系のキャラといえば彼らが子供の頃に馴れ親しんだディズニーものやアメコミ系に限られています。すなわち日本産の、しかも最近のキャラクターについては大人の層には愛着もなく、あくまで「子供用」のキャラとしてしか写らない現実があります。)このSOEAとの接触の中でアメリカのインターネット・コンテンツ・ビジネスのリアルタイムな動きを色々と見聞し、最先端のテクノロジーやマーケティングの情報を数多く学ぶことができました。So-netのコンテンツ・ビジネスのこれからの方向性について、やはり先行するアメリカの技術の導入は不可欠だと感じました。

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