2011/11/01

17(第二部)

 前回は「ポストペットパーク」のコンセプトについて書きましたが、その中で触れた「バーチャル・ワールド」のことをもう少し掘り下げてみたいと思います。まずは身近な素材として、「ファイナル・ファンタジー」のネット版を取り上げたいと思いますが、6月のサービス開始から夏休み期間中を通して、最近の一日当りのアクセスは約12,000名程度と言われています。ブロードバンド常時接続ユーザーが80%ということですが、相変わらず深夜の接続が70%でサーバーの負荷は午前0時前後にピークになるようです。当初の予想通り、コア・ユーザーの平均年齢は20歳以上ということですから、明らかに高年齢のハイエンド・ゲームユーザーのためのソフトウェアということになっています。

  ネットワーク・ゲームは私にとっても大きな「テーマ」です。およそ6年前にインターネット・ベースのネットワーク・ゲームの開発に着手しましたが、先行していたアメリカでも28.8Kモデムをネクストスタンダードとして位置付けていたほど、電話回線ベースの通信速度環境の条件設定は不確かなものでした。理論的な「リアルタイム」のネットワーク・ゲームはLAN上ではほぼ完全に実現されていました。もちろんゲーム・カテゴリーによる難易度の違いはありましたが、マルチ・プレイヤー・ゲームの原型といえるアクション・ゲームの「コンバット・シュミレーター」を12台のLAN上のPCで対戦している様子を見たのは95年、米シリコンバレーのゲーム制作会社でのことです。この時の驚きは、既にグラフィクスが3DCGで作られていたこととそれを動かす200MHzCPUの驚異的なスピードを目の当たりにしたことでした。現代の感覚で言えば200MHzCPU搭載機などは秋葉原のジャンク・ショップであれば\10,000程度で売っているようなレベルですが、わずか7年前には超高速の最先端であったことを思うと恐ろしい位の進化のスピードです。このCPUスピードの驚異的な進化に比較して、通信環境の方はかなり遅れているという印象です。この7年前の時点ですらFTTH(家庭用の光ケーブル網)は米国では時間の問題だとの認識が一般的でした。ITバブルに突入してゆく頃のイケイケのアメリカでは当然のことだったかもしれませんが、この頃のアメリカ各地で開かれたコンピューター関連のビジネスショーにでかけるとこうした「夢」のネットワーク社会の到来は西暦2000年をひとつの転機として一気に実現されるという論調で埋め尽くされていました。

 さて、ネットワーク・ゲームの究極型は「マルチ・プレイヤー・オンライン・ゲーム」のバーチャル・ワールド・ソフトウェアだと直感したのは1997年にサン・ディエゴのスタジオでプレゼンテーションを受けた時でした。このプレゼンテーションは、一部の関係者にのみ行われたアメリカのソニー・オンラインという新会社のネットワーク・サービスの内容説明で、その目玉として紹介された「エバー・クエスト」のプロトタイプ・コンセプトでした。この「エバー・クエスト」は、ロールプレイング・ゲーム・スタイルのマルチ・プレイヤー・オンライン・ゲームの、現時点での最高傑作であると共に、最も成功した、また最もお金のかかっているゲームです。正式スタートから3年を経過した現在でも世界一のプレイヤー数を誇るゲームであり、かつバーチャル・ワールドの最大の具体例だとも言えるでしょう。ここで展開される「世界」はRPG定番の中世的世界ですが、いずれ近未来を想定した映画「ブレードランナー」のような世界で展開されるバーチャル・ワールドでのシミュレーション・タイプのRPGが登場する予定を聞いていますが、それが実現されると「仮想と現実」の境界がますます曖昧なものになってゆくような気がして、ちょっと恐ろしい気持ちになるのは私だけでしょうか。

 バーチャル・ワールドのソフトウェアのアイディアは、これまでのところはコマーシャル性を求める結果、ハリウッド映画のアクション系作品のようなものが大半です。「マトリックス」「ブレイド」「MIB」などの近未来設定のハードコア・ムービータイプが多いために、「殺戮」や「戦闘」といったより一層生々しい「ゲーム・エレメント」が強調されがちです。リアリティが追求されればされるほどサディスティックな世界が展開され、非現実ではありながら異常者やサイコキラーのようなキャラクターがこれでもかというほどに登場する「ワールド」がネットに多数存在するようになるでしょう。エキセントリックなエンタテインメントであるとは言え、バーチャル・ワールドの「裏」の世界がそれほどまでに繁殖すると、ますます青少年への悪影響などが懸念される事態が想定されます。アメリカではゲーム・ソフトにもいわゆる「R指定」が存在しますが、映画やゲームとは比較にならないほど「バーチャル・ワールド」でのシミュレーションがもたらす人間への精神的・心理的な影響は大きいと思います。テクノロジーの進歩がもたらす「負」の効果として、バーチャル・ワールドには私たちがこれまでに未体験の領域が沢山含まれているだけに、時として大きな不安を感じます。PS2の「僕の夏休み」やアニメーションの「千と千尋」のような「仮想世界」が主流になってくれたらなぁ、と思いつつ、我らの「ポストペットパーク」の目指す「世界」の楽しさを、これからもっともっと多くの人に体験してもらいたいと願っています。

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