2011/11/01

7(第二部)

 先月は諸般の事情があり勝手ながら休載させて頂きました。ここで改めてお詫び致します。
 その間に、米国での同時多発テロ事件が発生し、ニューヨークに在住している私の友人、知人の中にも身の周りの方で不幸にも被害に遭われた方がいるという知らせなどが入りました。とても現実のこととは思えないショッキングな事件でした。また、この事件を契機として国際経済、国内経済の両面で消費意識を中心として、心理的にはかなり広範囲にマイナス・マインドが広がったように感じます。

 日本のビジネスとマーケットは10年以上に及ぶ景気低迷期の中で未だに出口の見えない状態にあります。各企業のオペレーションは合理化やリストラといった緊縮型のコスト削減を中心として、収益確保のための努力を続けていますが、一方で次の成長要因を見出すための研究開発投資の資金が不足していることもあって、マーケットでは限られた需要に対して同業他社との競合市場を巡るサバイバル戦の様相が色濃くなっています。これは言いかえれば、各企業の体力勝負、弱肉強食の熾烈な戦いが激化していることであり、今後数年の間に、より一層劇的な業界の再編成が起こり、企業の倒産、合従連衡、資本関係の変化などが急ピッチで進むと思います。

 先週、私の上司が中国を視察してきましたが、「世界の工場」になりつつあると言われる中国南西部の工場地帯の現場に、たいへん大きな驚きと脅威を感じてこられたようです。経済のグローバル化は急速に進んでいて、一方情報のグローバル化によって、先のテロ事件などの国際事件が全世界に同時にインパクトを与える時代、すなわち地球全体が一つのシステムとして動くような時代へ進んでいることは、考えてみれば想像を遥かに凌ぐレベルで世界が難しい時代に向かって進んでいることを実感させます。民族、宗教、文化の違いを越える共通の価値観や原則を全世界の人が共通に認識し、同じレベルで生きる道を探ることはとてつもない努力と忍耐、また理解力を必要とするでしょう。情報技術革命と言われるテクノロジーがもたらした大きなメリットと、それによって急速に顕在化してきたアレルギー的な副作用。私はIT革命の現状を、特効薬とその副作用の関係のように捉え始めています。つまり、新薬の臨床試験のプロセスのように、IT革命は現在、まさに地球全体で臨床試験を続けている段階にあると考えているのです。

 インターネットはそもそも世界の知識人と軍事関係者にとっての自主的なコミュニケーション・ネットワークとして構築されたものです。電話や手紙のデメリット(時差、通信コスト、一対一コミュニケーション、…)を克服して、安く、リアルタイムに、同報多方通信を実現する手段として放送や出版をも越える方法と考えられました。このインターネットの民生化/商用化に対応して、90年代に入ると共にアメリカの未曾有の好景気を支える新産業の主役として、情報通信技術産業は一躍脚光を浴びることになりました。いわゆるインターネット革命の世界的なキャンペーンが始まったのです。

 当時、私はSMC(現ソニーミュージックコミュニケーションズ)の一員として、プロモーション&PRのエージェント・ビジネスにおけるマーケティングとコンサルティングを担当していました。前回まで色々とご紹介してきたように、私自身にとっては様々なビジネス、様々な業界の方々と出会うことの出来た有意義な5年間だったのです。同じ頃、会社にとって、本業のミュージック・ビジネスは芸能界や音楽業界の枠を越えて、広く国際的なエンタテインメント・ビジネスとして成長して行く大きな転機に差しかかっている時期でした。とりわけコンピュータ・ゲーム・ビジネスの急速な発展は、ソニーグループにとっては大きな脅威であり、また家電業界やメディア&ソフトウェア業界にとっても同様の恐るべきビックビジネスに育ってきていました。

 ソニーミュージックグループの中で、こうしたニューメディア・ビジネスの将来を真剣に展望していたのはかつての私のEPICソニー時代の二人の上司でした。後のプレイステーションのソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)の創設者の一人で、ソニーミュージックの代表も勤められた丸山茂雄さんとソネットでおなじみのソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)の創業に尽力された堤光生さんのお二人です。丸山さんはソニーの久多良木健さん(現SCE代表CEO)とともに任天堂との提携の決裂を契機として、32bitゲームハードウェアを開発し業界に参入することを推進した立役者であり、一方堤さんは早くからインターネット時代を予見して、新しいソフトウェア流通のシステムを展望しておられ、ソニーの山本泉二さん(現SCN代表CEO)とご一緒にインターネットプロバイダービジネスを立ち上げられました。幸運にも私はこのお二人の部下としてSMEのニューメディア系新規ビジネスに早い時期からご一緒に仕事をさせて頂く機会を与えられました。二つの個性は際立っており、ビジネスマンとして、男として、また人間として、素晴らしく豊かで創造性に富んだ生き方を目の当たりにして、本当にたくさんの事を教えて頂きました。まさに、私にとっての人生の師匠であり、模範でもある方々なのです。

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